森のそよ風のブログ

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《続編》 AT&T と VOO の 配当再投資10年バックテスト


こんにちは。


先日のブログ『VIG-ETFと、マイクロソフト、AT&T』にて、配当再投資 を過去10年の間 続けた場合の 収益力について分析記事を書きました。


その中で、米国のインデックスETFである VOO と 人気の高い高配当株の”T”(AT&T)で、予想外の大きな差が出る結果となりました。
恐らくVOOの方が長期では有利だろうと事前予想はしていましたが、この大きな差は想定外のもので、高配当株数種を有して押し目で追加投資をしている筆者には見過ごせないものでした。
まだ十分には納得できていません。


そこで、今日はもう少し深掘りして、その差の原因を追跡してみたい。



1.おさらい


 まず、ざっとおさらいします。 サマリを簡易な表にしました。



上表は $1000を初期投資して配当再投資した場合の10年後の収益額は、VOOが、Tの 約3.5倍 生み出したことを示しています。(計算ツールとして、Portfolio Visualizerを使用。)



2.基礎データ


 基本的なデータを振り返ります。


まず株価の推移です。
 


この10年で VOOは株価が3.07倍になりましたが、”T”は1.009倍で、ほぼ横ばいです。
このことは、テスト前に既に分かっていたことで、驚くには当たりません。



次に、各時点での購入価額ベースでの「配当利回り」を振り返ってみます。



"T" (AT&T)は、高配当利回り株として名が通った銘柄です。10年前は利回り5.59%で、この値でも十分に高配当ですが、最近の2021年4月末においても、その配当利回りが6.62%となっており、株価が安定していれば欲しくなりますね。
一方、VOOは、10年前の 0.96%からは改善していますが、最近でも1.4%程度で、お世辞にも配当が魅力的とは言えません。  配当再投資なら、つい T社が優位に見えますね。



3.「4 × 四半期」 だけ、自前でエクセルで計算してみた。


Portfolio Visualizer のBacktest 機能を疑っているわけではありませんが、いくら VOOが株価がしっかり上がっているからと言って、配当金が 投資スタート時点の 2011年4月末で VOOの5.8倍もある ”T”が大差で 負かされるとは信じられなかったので、最初の 四半期の4期分だけ、自ら エクセルツールで計算してみることにしました。


それが、次の二つの表です。
 注※:細かいので、それぞれの各マス目までは見ていただく必要は無しです。



(1)Tの 「配当再投資」1年リターン (自力 エクセル計算)


    ★注意:Tは、シミュレーション対象期間の10年で、全体として株価が上がっていないので、上記のエクセル・シミュレーション(1年間)でも 便宜上簡易的に、株価は上がり下がりなしで計算してみました。(その点については実態と少し差があります。)



(2)VOOの 「配当再投資」1年リターン  (自力 エクセル計算)



上表を じっくりご覧になっていただく必要はありません。
作っている自分でさえ頭が混乱しましたが、他の方が見られても、わけがわからないと思います。


しかしながら、自分でエクセルの 式を考え、また数値を入れてみて、わかったこと・感じたことが4点ありました。


発見①: 計算式を組み立てるのが非常に面倒!! 
    配当を再投資して生まれる新たな配当。
    その配当をまた投資して生まれる孫の配当。
    非常に多段階な循環的な計算式になります。
     これを10年分やるのは、やってできないことはないが、非常に複雑で面倒。
     株価のように価額が不規則に変わり、配当金も不規則に変わる投資対象を、
     本格的なプログラミングではなく、エクセルなんかでやるもんじゃない!!
     同時に、動きが複雑で個性のバラバラな株の運用での最適な銘柄選びの
    難しさを改めて感じました。


発見②: ”T” は VOOに対して、配当再投資の1年目で早くも負け始めている。
    上の二つの表の それぞれの最終段の欄だけ見てください。
    Tの1年(四半期を4回)終了時の収益率は5.7%で、 VOOのそれは 13.0% 。
    Tの株価が上がらない場合のシミュレーションですが、2.28倍の差が
    ついています。


発見③: 株価が上がらない株に対して配当再投資運用をやっても、その”収益増”は、
    複利的になっていないことを認識。
    Tの配当利回りは 10年前は 約年5.6%で、四半期毎に概ね1/4づつ支給されます。
    上表では 便宜的に初期投資を$1000としていますが、$10000でも構いません。
     $10000買うとすると四半期毎の配当で新たに株を買い増せると思いますが、
    上記シミュレーションでは端株でも買い増す形で計算式を構成しています。
    四半期毎の買い増しを、4回 循環的に回して、結果的に5.7%の収益ですが、
    これは年間の配当利回り (B表で示した5.59%) と ほとんど変わりません。
    つまり配当利回り率を利子率として適用した「単利」の預金に近いです。


発見④: このエクセル計算をするにあたって、 事前に要調査項目がいくつかありました。
    ●両銘柄の、2011年5月からの 実際の四半期毎の配当金額($)の推移。
    ●両銘柄の、2011年5月からの 実際の四半期毎の株価($)の推移。
   これらを調べて、今更ながら発見したことがありました。
   それを次章 4.で書きます。



4.改めて、両銘柄の基礎データを、更に見てみる。
 


 上表Cで わかりますが、VOOの 1株あたりの年間配当金の伸びが凄まじい!
AT&Tは、1株配当は10年で19.54%しか伸びていないが、VOOは ナント、347%も伸びて、
4.47倍になっている!    株価上昇の陰に隠れて つい見落とし勝ちですが、VOOは恐るべき増配銘柄です。(さすがに米国の大手優良トップ500銘柄です。株主還元が凄いですね。)
VOOを買って10年持っていると、配当は勝手に4.5倍になっているのです。成長企業の配当成長は、侮れないと認識しました。その配当成長が、株価成長の陰に隠れて見落とし易いのですね。




上表Dも、C表と似ていますが、初期投資額の購入$1000あたりの配当金額の比較です。
2011年4月末に、それぞれ$1000分買ったときは、Tの年間配当金額は、
確かにVOOの5.8倍ありました。(表の備考欄   T:VOO= 1:0.17 )
ところが、10年後の2021年4月末になると、VOOの配当は Tの65%まで追い上げています。
(表の備考欄 T:VOO= 1:0.65)


この配当変化率が続くとすると、投資開始から13.6年経つと、VOOの配当金額(絶対金額)は”T”に追いついて やがて追い越す計算になります! 高配当だと思っていた"T"が、継続保有13.6年で 配当額もVOOに抜かれる。(買った株数は違えども、同時期に同じ 総初期投資額で買った場合の配当受取額です。)
先日のバックテスト・シミュレーションは10年までで止めましたが、更に数年やるとVOOから得られる配当金額は更に加速度を増して行きます。それが再投資されるので、株価上昇によって 配当金を含めた評価額が 相乗効果で一段と加速されます。10年間の配当再投資の収益額は 3.5倍の差でしたが、15年だと5倍を超えて行くでしょう。


"T"は株価が上がらないので、一株配当額は増えなくても、見かけ上は 高い配当利回りが常に維持できてしまうので、購入段階では一見有利に見えます。数字のマジックですね。
なお、"T"は配当貴族の一員ですが、配当貴族銘柄だからと言って、一株配当が毎年グングン上がって行くとは必ずしも限りません。そこは要注意です。

配当貴族の地位は配当をほんの1セントでも上げれば保てるためです。



5.結局わかったこと


「配当再投資戦略」において、10年運用で TとVOOに大きな差がついた主要な要因について、筆者は次のように結論づけられると考えています。
数日前までは必ずしも納得できていなかった大きな差の真の要因が見えて来ました。


 要因1: Tはこの10年 結果的に株価の上昇なく、VOOは年平均で11.88%上昇したこと。
     ★ 複利効果に大きく効いて来る!


 要因2: VOOは、1株配当金の毎年の伸びが、非常に大きいこと。
      配当が 年々 16.2%ずつ 伸びた。
     ★ これも複利効果に大いに効いてくる!


 
要因2は、「コロンブスの卵」的な発見でした。身近に起きていることを補足します。
投資ブログ友達が、VIG の「配当再投資」で 大きな収益リターンを得たとの情報を知らせてくれましたが、その成果は、成長力が模範的なマイクロソフトの配当再投資パフォーマンスに匹敵するものでした。
VIGを配当再投資運用して成功を収めている原因は、VIGが「連続増配である」こと(上記の要因2に相当)が奏功しているのではないかと考えます。 株価上昇との相乗効果で、複利的・加速度的に利益が増えているのですね。 インパクトの大きい情報であり、積極的に見習うべき手法だと考えます。



6.まとめ


前回ブログでも書きましたが、配当利回りが高いことは魅力的ですが、それだけでは、配当再投資の威力を 十分に発揮させることは難しいことがわかって来ました。
筆者もNGG(National Grid)など、上がったり下がったりで長期では株価が横這いの高配当株を数種保有し、配当金ほかの原資を活用して 時々追加再投資していますが、この方法の資産形成に対する貢献度を、予断を持つことなく改めて見直してみます。


本ブログでの追加分析から得た印象では、配当再投資で結果を出すためには、株価が、例えば 年率で3%程度の地味なレベルでも、 じわじわと上がるような 着実・堅実な事業業績を示している銘柄を選ぶことが、求める良い結果を出すと考えられます。


そのような、堅実で株価成長と配当水準のバランスが取れた銘柄は、どう探すのでしょうか?
S&P500指数に採用された銘柄から成るVOOの年平均株価上昇は この10年平均で、11% / 年 あります。
従って、株価が年3%から5%くらいで ゆっくり上昇し、配当は (7%はなくても) 3%前後出す銘柄を見つけることは、さほど困難ではないと思われます。
また、個別株に限らず、そのような じっくり堅実上昇のETFや投信銘柄を見つけることも可能で、ETFや投信は分散効果で 更に手堅いと思われます。
そういった カテゴリーの 銘柄やETFが「配当再投資」のスイートスポット かも知れません。


今回の分析で得た教訓を今後に生かしてゆきたい状況です。



本日も最後までお付き合いいただき、大変ありがとうございました。